27 December 2006

ジェフリー君

 二夜連続でNHKの深夜放送、BSドキュメンタリー「アジアに生きる子どもたち」を見た。
 今夜はおばあちゃんの面倒を看ながら介護士を志す14歳のフィリピン人・ジェフリー君の話。
 学校に通いながら働いて、夜遅くなるとおばあちゃんに怒られ、ダメな兄と口論し……こうして文字にするとありがちなパターンに感じられるかもしれないけど、映像で見るとその大変さは正に筆舌に尽くし難い。

 介護士になるための研修でジェフリー君はある気難しいおばあちゃんの担当になる。そのおばあちゃんは施設のヘルパーさんがいくら言っても外に散歩に行かない。担当になったジェフリー君とそのパートナーの女の子に冷たい言葉を浴びせる。でもジェフリー君もパートナーの女の子も、おばあちゃんの言う通りに黙々と働く。
 正直、14歳に見えない。

 この研修のせいで家に帰るのが遅くなって本当のおばあちゃんに怒られるんだけど、くたくたになって帰ってきたジェフリー君に、
「どうしてこんなに遅くなったの!?私が病気だということを忘れたの!?私がおまえを待っていることを忘れたの!?」
 と怒りをあらわにする祖母。一生懸命勉強してきたジェフリー君にはあまりにも酷な言葉。
 いつもは学校を早退してまでおばあちゃんの様子を看に帰るほどの孝行孫。おばあちゃんの面倒を全然看ない兄と口論するほどおばあちゃんの心配ばかりしているジェフリー君。しかも遅くなることは前日に言ってあったのに。
 そのジェフリー君が、「本当に勉強していたんだ」と弁明すると、おばあちゃんの決定的な一言。
「信じるもんか!」
 もういたたまれなくなって、カメラマンのやつ、ジェフリー君の代わりに説明しろよと思いました。
 ジェフリー君はそれでも声を荒げたりすることはなく、学校のカリキュラム表を見せてようやく信じてもらえたんだけど、さすがにヘコんでいるようでした。

 でも本当にすごいのはここから。

 おばあちゃんとのやりとりが終わった後、ジェフリー君は取材者の質問にこう答えます。
「感情が爆発しそうになりました」
 実に冷静にこう言ったんです。ん〜、俺が書くと何か伝わらないな。
 あんなにつらい出来事があったのに、叫んだり泣いたりもせず、取材に対して実に大人の対応をしたんです。要するに、日本人の感覚で、一般の14歳だったらこんな場合どう答えるでしょう?まぁカメラに視線も合わせずにこんな感じでスネるでしょう。
「昨日遅くなるって言ったのに……何だよ、ちゃんと覚えてろよ!」
 あまりスレていない子でこんな感じだと思います。それをジェフリー君はこう答えたのです。
「感情が爆発しそうになりました」
 …どうですか?俺が受けたインパクトが少しは伝わったでしょうか。何のインタヴューだよと思いませんでしょうか。一歩間違えれば何かの報告レポートです。
 14歳でこの精神の成熟度。そりゃ研修先のおばあちゃんが意地悪を言っても愚痴の一つもこぼさないわけです。

 研修先に話を戻します。
 ジェフリー君とパートナーの女の子は、何と、最終的におばあちゃんを外の散歩に連れ出すことに成功したのです!「何で私が散歩になんか行かなきゃならないのよ!」と言っていたおばあちゃんをです。
 気難しいおばあちゃんの孫の話を聞いたり、言われた仕事を全部やっている内に、二人はとうとうおばあちゃんの心の氷を溶かすことに成功したのです。

 そして、研修最後の日、どんなに忙しくても、実のおばあちゃんにつらく当たられても、決して涙を見せなかったジェフリー君が、最後に泣いたのです。
 「研修の別れ際に悲しそうな顔を見せたらダメ」という教えがあるらしいので、一生懸命我慢はしていましたが、それでも涙がこぼれてしまいます。ジェフリー君はおばあちゃんに最後の言葉をかけます。
「いつも笑顔でいて下さい。時々は外に出て散歩して下さい。何でも自分でやろうとせず、もっと人に頼って下さい」
 意地悪だったおばあちゃんも、泣きました。泣きながら、「出ていく前に床をきれいにしてってね」と現金なことを言います。
 俺はテレビを見ながら何じゃそら!と心の中で突っ込んだけど、ジェフリー君と女の子はさすが、涙を拭きながら喜んで床掃除をやるわけです。
 涙を隠しながら、最後の部屋を出ていったジェフリー君は、カメラに「優しくしてあげられて良かったです」と何とも慈愛に満ちたコメント。

 いやぁ、負けますね。これは俺を含めて日本の一般的な子どもたちは敵わないと思いました。
 本当に、「学ぶ」とはこういうものだと思いました。すごい。
 俺も一応、教育機関で学べる期限が決まっている身。ジェフリー君の域には達せていないかもしれないけれど、学べる内にできる限り学びたいと、ここ最近ずっと思いながら過ごしています。
 去ろうとしているものにしか実感できないものがあると思います。俺はそれにちんけなプライドを見出して、ここ何ヶ月も暮らしてきたけど、ジェフリー君を見て俺がとんだ甘ちゃんだと気付かされました。
 「学びたくても十分に学べない」という、ジェフリー君からしたら、俺はとてつもなく恵まれた環境にいます。ところがマインドはどうでしょう、俺よりジェフリー君の方がよっぽどハングリーです。
 もちろんこのまま負けているわけにはいきません。ジェフリー君に負けないよう、残された時間をできる限り濃密に過ごすつもりです。どこに出ても恥ずかしくない人間になるために。

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